全地球財団CEOからの書簡

2024年1月24日発表

公式声明

全地球財団CEOからの書簡

全地球財団の運営に関し、ユーザーの皆さんにこうして手紙を書くのは初めてです。いつもTEKKONをプレイしてくださり、また我々が発行する暗号資産であるWECをご利用くださり、本当にありがとうございます。私が全地球財団の初期構想を思いついてから、実に6年以上の歳月が流れました。2017年に、それこそビットコインだとか、初期の暗号資産(当時は仮想通貨と呼ばれていました)がブームを迎え、人々がこうした特殊な表彰物に興味を持ったことに驚き、そしてその熱量の大きさに圧倒されました。こうした人々の健全な欲望、売買で儲けたいとか、単純に未知なるものへの関心であるとか、本人たちですら気づいていないかも知れないこうした熱量を、何かもっと良いこと、社会の役に立つことに使えないかと、あの頃の私は考えたのです。時折しも、私は2015年に創業した水道配管の劣化箇所をビッグデータ解析(今の人工知能)であぶり出すベンチャー企業の経営にのめり込み、その営業のためにアメリカ中を走り回っていました。ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、ヒューストン、本当に色々な街に行きました。水道産業、特に飲み水を扱う上水道の産業では、水道会社の資産の7割が主に鉄の配管でできています。アメリカだけで、向こう30年間に150兆円を水道配管の交換に使わなければならない。こんな規模の大きい話、聞いたことがありませんでした。私が開発した人工知能のアルゴリズムを使えば、そのうち、30〜40%(45〜60兆円)を削減することができると、当時の私は息巻いていました。しかし、私の英語がまずかったのか、タダでも良いから使ってくれとお願いした水道会社に、ことごとく断られるという経験をすることになります。私が水道会社の企画担当者ならば、自らのやり方(経過年数などを元に、いつ水道配管を交換するか決めていくやり方)を大切にしつつも、土壌の質や塩分濃度、はたまた気象の影響などをコンピューターで解析したこのモデルを、一度は試してみるだろうと思うからです。大学で物理学を専攻し、大いに理屈っぽかった私は、こうした反応に、まったく納得がいきませんでした。なぜ市民のためになることが、市民のために働かなければならない水道会社によって阻止されているのだろう。この力学は、どこから来るのだろう。それは地域の独占企業である水道会社が購買の選択権を握っていること、それが市民の、市民による、市民のための民主的なプロセス、もっといえば市民の利害とは無関係なところで行使されていることと無関係ではないのではないかと思うようになりました。競争があれば、こういうことにはならない。より効率的なやり方を取り入れなければ、やがて競争相手に負けてしまうからです。これはインフラと呼ばれるすべてのものに対して成り立っている。電力しかり、ガスしかり、交通しかりです。インフラ会社の独占性は、法律で守られています。だから、余計にたちが悪い。しかし、2017年のある日、水道会社の役員とランチを食べていたとき、気づいたことがあったのです。彼は言いました。「タカシ、水道会社にソフトウェアを売りにいっても、相手は相手にしないだろう。自分の職を守らなければいけない人にとって、君のソフトウェアが将来的に自分の仕事を奪うかも知れないと思いながら、そのソフトウェアの導入を決めることは、非常に難しいことだ。しかし、我々も、動かなければいけないときがある。それは、市民が議会に来て発言したときだ。市民、たった一人の市民が、ある街の議会に顔を出し、公開質問をする。私は、水道配管の劣化箇所を特定するソフトウェアを知っています。なぜこれを使ってみないのですか、と。こうしたことが起これば、我々は、対応をしなければいけなくなる。タカシ、インフラを変えたければ、市民を味方に付けることだよ」と。市民はインフラの運営に対して、直接的な経営権を行使することはできないけれど、事実を確認した上で、間接的に影響力を行使することはできる。この言葉に、当時の私はハッとしました。しかし、だいたいにおいて、議会に来て発言をすることができるほど、インフラ会社の経営に興味を持っている市民は、ごく少数派です。少数派であれば、民主的なプロセスは回らない。これを多数派にするには、どうしたら良いのだろう。当時の私はこの問題を解くことにのめり込み、多くの時間を使っていました。インフラに興味を持つ市民を増やすことができれば、世界が変わるかも知れない。ちょっと待てよ、ある日、市民が漏水を発見する。水道配管が劣化しているということだ。そうだ、漏水を、水道会社の社員じゃなくて、市民に発見させれば良いんじゃないだろうか。市民は、自分でそれを発見したことで、それが自分のアクションだからこそ、自発的な興味が湧き、水道自体に関心、また強い問題意識を持つ。問題意識さえ持つことができれば、解決策はここにある。これで終わりだ。そんなことを考えていたときに起こったのが、暗号資産のブームだったのです。漏水を報告することの対価として、何かポイントのようなもの、この暗号資産というものを市民に配れば良いのではないか。私は、単純な暗号資産トレーディングなどには全く興味はありませんでした。しかし、社会変革のための、ポイントのような、表彰物に興味が湧きました。その価値が、時間によって、プロジェクトの進展によって変化する(プロジェクトの進展が良ければ増加する)暗号資産。世界中のインフラは多岐にわたり、通常のファイナンス方式(ベンチャーキャピタル・ファイナンスなど)によって、資金を先払いしていったら、あっという間にお金が無くなってしまう。しかし、この暗号資産方式を使えば、資本集約的ではないやり方で、効率的に世界を変えることができるのではないか。また、暗号資産の利用は、多くの産業では全く成り立たないとしても、こうした非中央集権的なやり方こそは、インフラ産業という、ある種極端に凝り固まった中央集権、モノポリー(独占企業)などに対する本質的なカウンターになるのではないかと思うようになりました。

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが今日の手紙の本題です。2017年のあの日に考えたアイデアは、時を越えて、2020年、全地球財団の設立という形で、また2022年に『TEKKON』というアプリを社会に投入することによって初めて社会実装されることになりました。自宅や職場の周りにあるインフラをスマホで撮影するだけで、ポイントがもらえる。それが暗号資産や現金と交換できるアプリでした。撮影されたインフラの基数は640万基を超え、ユーザー数は今日も増え続けています。しかし、足元では困ったことも起きているのです。それは、TEKKON自体の運営インフラ、もっと言えばエコシステム自体が危機にさらされているということです。簡単に状況を説明しましょう。TEKKONの仕組みは、電柱なりマンホールなり街路灯なりのインフラをスマホで撮影すること、またこうして撮影された写真がフェイクでは無いことをスマホでレビューすることによってポイントをもらうという仕組みです。このポイントを、暗号資産に変えて市場で売却することができる。もしくはLINE Payなどの現金同等物に交換することができる。しかし、この仕組みを担保しているのは、こうした報告によって、インフラ会社の経営が効率化され、その効率化に対して何らかの対価がインフラ会社から(全地球財団に対して)支払われること、またその支払いを市民に適切に還元することによって、かかる暗号資産の価値が上がったり、また現金として分配できることにあるのであり、たとえば、ある国やある街、ある地域の全ての電柱が撮影される(これを我々はコンプと呼んできました)前に、つまりこうして集まった写真データとその解析物が、インフラ会社に影響を与えうる前に、どんどん換金に回されてしまっては、歯車が回るどころか、逆回転をしてしまうという問題点を持っているのです。こうした行為をハックと呼んで楽しむ人たちもいます。運営の穴を見つけ、自分だけで儲けよう。そんな考え方なのかも知れません。しょせんTEKKONなんてブロックチェーンゲームなのだから、流行り廃り以外の何物でもなく、ちょっと儲けてそれで終わり、そんな考え方です。しかし、インフラという業界は、そんなにすぐには変わらないのです。変革には、10年、20年、30年という時間がかかるでしょう。もちろん、こうして我々が毎日必死にテクノロジーを駆使しているので、きっかけを作るだけなら、当初のモデルを提示するだけであれば、3年、5年の時間軸で、多くのことを成し遂げることができるとは思います。しかし、ある種の忍耐が必要である産業であることは、強調しても、強調しすぎることはありません。問題点の一例をあげれば、一日歩き回り、電柱の写真を300基分撮っただけで、10万円ほど儲けられるというのは、行き過ぎていると考えています(実際に、そういう人たちがいたことを、運営として認めなければなりません)。インフラというのは、市民のためにあるからこそ、そんなに儲かるはずがないのです。また、誤解を恐れずに言うならば、本当に、それで良いのです。しかし、全くお金にならないわけではない。その見定めが大切だと思っています。だからこそ、全地球財団では、常にクオンツチーム(ポイントの量的観測を行うチーム)が、毎日ポイントの拠出量を観測し、市場をウォッチしています。より多くのポイントを配れば、より多くの人たちがインフラを撮影してくれることが分かっています。しかし、インフラを守るということ、インフラに興味を持つということは、何もお金をもらうからやらなければならないことでも無いのだと思います。インフラは市民の、皆さんのものです。それを自分たちの手の中に取り戻すことは、皆さんの利益です。だからこそ、持続可能な形で、これに向き合っていく必要があります。全地球財団は、これまで、ポイントの切り上げや切り下げといったことを、実験的に繰り返してきました。シミュレーターを回しても分からないこと、実験しなければ分からないことがあり、まだベータ版の位置づけだからこそ、こうして身銭を切って、実験をしてきたのです。今回、上記に書いたような観点から、ポイントの切り下げを行うことに決めました。また、自ら購入したポイントの一定倍率以上は換金できないという、ある種の制限を導入することも決めました。これもまた実験です。ポイントの流れによって、これもまた積極果敢に変えていくつもりなのだということを、覚えておいていただければと思います。

核家族化が起こり、ある種のプライバシーと引き換えに、家系における世代の分断が起こりました。一つの村が、街になり、都市になる過程で、人は他人のやっている仕事の意味や価値を知ること(見ること)ができなくなり、そこへの興味が失われた結果として、リスペクトが無くなってしまいました。社会の進展は、ある角度から見れば進歩ですが、人々が、細分化された、小さなサイロ(タコツボ)に深く入ってしまえば、距離は伸びますが、体積は変わらないのと同じで、他者との関係性が分断されてしまい、社会の全体最適がどのような状況であるべきなのか、判断が難しくなってしまいます。全地球財団は、インフラ世界で起こっているサイロ化に、市民と一緒になって、情報革命を起こします。それは、見える化であり、その見える化こそが、インフラ民主化の一里塚なのだと信じています。インフラの維持管理を民主的しようと考えれば、TEKKONに参加している自分の行為が、他の人の利益を損なっているかも知れないということに示唆的になるべきであり、ゼロサムを避け、アービトラージを避け、全体のパイを大きくすることに、村の皆で参加していくことが大切だと思うからこそ、また人間は弱い生き物だからこそ、今回こうしてシステム上の制度を設ける次第です。ポイントを購入し、街に出て、電柱の写真を撮れば、一定の報酬が配られる。そこには一人ひとりの市民に対する、他の市民からのリスペクトがあり、このリスペクトの伝播によって、街はより強靭になり、かつて村人がそうであったように、市民一人ひとりが繋がり、街や都市、国には、真の民主主義が戻ってくる。これから、そんな未来を一緒に作っていければと思います。

全地球財団

創業者兼CEO

加藤崇

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